JANAMEFメルマガ(No.29)

ニューヨークでの内科研修から腎移植内科を目指して

森田 紗枝
SBH Health System


私は2021年に日米医学医療交流財団からの助成のもと、ニューヨークのブロンクス区に位置するSBH Health Systemで内科研修をしており、2024年6月に研修修了予定です。財団からは2017年にもロンドン公衆衛生大学院および政治経済大学院で医療経済・政策修士を取得する際にも助成をいただきました。内科研修後は腎臓内科および腎移植内科のフェローシップに進むことを予定しています。

私が内科研修をしているブロンクス区は、アメリカ合衆国ニューヨーク州ニューヨーク市の5つの行政区(マンハッタン、ブルックリン、スタテン島、クイーンズ、ブロンクス区)のうち最北端に位置する地域です。観光地としては、ブロンクスズー(動物園)、ニューヨークボタニカルガーデン(植物園)、リトルイタリーそしてヤンキースタジアムがあります。人種は黒人やヒスパニック系が多いですが、東欧系移民のコミュニティもあり、多様な文化が息づく賑やかな街です。一方で、ブロンクス区は一般的に治安が悪いことでよく知られており、5つの行政区の中で凶悪犯罪率や貧困率が最も高いです(1, 2)。そうした地域なので、困難な社会的背景を抱えたり、アルコールや薬物中毒者、ホームレス、精神疾患を持つ患者が多く、医療スタッフに叫びかかったり、治療を拒否したり、対応が難しいケースが多くあります。1年目のインターン時の最初の数ヶ月は、対応に戸惑うことがありました。しかしながら、数ヶ月もたつと、そうした社会的背景を理解し視座を高く持ちながらより冷静に対応できるようになり、全人的な医療を意識する機会が多々あります。ソーシャルワーカーやケアコーディネーターといった職種も各病棟に配置されており、緊急保険(無保険者が入院した際に申し込むことができる公的保険)の手配や、薬物中毒者のために住居の手配などを通して医療チームと連携しています。

私は、日本と米国での研修を通し、腎臓内科学がカバーする様々な病態生理や慢性腎臓病患者や腎移植患者に対してプライマリケアー医としても病棟医としても関わることができる点に魅了され続けてきました。腎臓内科に関して、米国と日本の違いとして特筆すべき点は米国では末期腎臓病患者への腎移植が盛んに行われているのに対し、日本はその10分の1以下ほどの症例数しかなく、諸外国の中でも非常に少ない水準にある点です(米国年間25,000症例以上に対し、日本は年間2,000症例程度)(3, 4)。また、米国では献腎移植の割合が高いのに対し、日本では生体腎移植の占める割合のほうが高いです(米国 献腎72%に対し、日本 10%)。一般的に、透析に比べて腎移植のほうが長期生存率およびQOLの点で優れていることが知られていますが(5)、米国では待機患者の平均待機期間は3〜4年であるのに対し、日本では10年以上にもなるといわれています。献腎移植は、一般的にその多くが脳死患者からの移植が占めることになりますが、日本で盛んにならない理由については様々な点が考えられています。中でも日本では生前に示された意思を確認できた人から臓器提供を行う「Opt-In」の考え方を採用している点や(6)、移植医療を支えるシステムの整備が不十分である点にあると言われています。米国やその他の国の臓器提供数が多い国は、生前に“提供しない”という意思が示されていないかぎり臓器提供を行う「Opt-out」を採用しています(6)。米国では家族に対してケアや意思確認を行うドナーコーディネーターが充実しており、実際私の勤務する病院でも主科として患者が予後が非常に不良と判断した場合は、患者が亡くなる前からその地域を担当する移植ネットワークおよびコーディネーターに連絡をすることが推奨されています。そして院内死亡例は全例、移植ネットワークに連絡することが必須となっています。米国ではたいていの大規模病院では腎移植を行っており、腎臓内科の中に腎移植内科が存在し、外科チームと協力し周術期管理を行います。私も腎移植内科医として米国で研鑽を積み、日米両国の慢性腎臓病患者の健康の改善に貢献したいと考えています。

 

参考文献:

1. NY 市犯罪マップ. Accessed in May 2023.
2. Thomas P. Dinapoli. New York State Comptroller. New Yorkers in Need A Look at Poverty Trends in New York State for the Last Decade. Accessed in May 2023.
3. UNOS. 2022 organ transplants set again annual records. Accessed on May 2023.
4. 日本移植学会. データで見る臓器移植. Accessed on May 2023.
5. M Tonelli, et al. Systematic review: kidney transplantation compared with dialysis in clinically relevant outcomes. Am J Transplant.2011 Oct;11(10):2093-109.
6. Harriet R, et al. Assessing Global Organ Donation Policies: Opt-In vs Opt-Out. Risk Manag Health Policy. 2021; 14: 1985–1998.

 


執筆:森田 紗枝
SBH Health System